社長の好意が招いた労基法違反!?(「年次有給休暇の前貸し」編)
昨年の秋にカオスグループで、7名の入社がありました。
10月入社だと、そろそろ年次有給休暇(以下「年休」といいます。)の初回付与のタイミングというところです。
早速、業務が少し落ち着くタイミングで年休をとる計画をしている者もいるようです。
花見に行ったり、バーベキューをしたり、高校野球を観戦したりなど、外に出るのに良い季節がやってくるからでしょうか。
近年ワークライフバランスが意識されるようになり、また、活力に満ちた働きをするためにも、仕事を離れリフレッシュすることの重要性が高まっているように感じます。
事前に計画して仕事の段取りをつけて休みをとることで、問題になることは、それほど多くありません。
しかし、図らずも突発的に休まざるを得ない状況(病気、慶弔、事故・・・など)が生じることもあります。
年休がまだ付与されていない従業員が、このどうしても休まなくてはならない状況になった場合、会社の対応どうされていますか?
その際に取られる対応は、次の2つのどちらかが多いのではないでしょうか。
①欠勤とする(欠勤分を給与から控除する)
②年休を前貸し付与し、年休が付与されたら前貸し分を返してもらう(年休扱いにするので、給与から控除しない)
まず、新入社員への年休の付与要件を確認しましょう。
労働基準法 第39条
「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」
と定められています。
①パターンは、年休がない事が明確であるので労使ともに納得感を得られやすく、法的にも働いていない時間に対する給与を支給しないことは認められています(ノーワークノーペイの原則)。
②パターンは、実感としては、心優しい事業主が恩情で年休を前貸しすることが多いように思います。
しかし、この②パターンが問題となるのです。
法定の基準日より先に付与した分を、後で返してもらうということなので、一見合理性があるように思えます。
ところが、この取扱いには少なからず問題があります。
まず、働くうえで外すことができない労働基準法(以下「労基法」といいます。)に次のような定めがあります。
労働基準法 第13条
「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」
基本的な考え方は、労使の合意があれば、自由に労働条件を設定することができます。
しかし、労基法 第13条により、例え労使の合意があったとしても労基法の基準を下回ることは認められません。
労基法に定められている年休の付与のタイミングは、入社後6ヶ月ですので、それより早く付与することは全く問題ありません。
しかし、本来のタイミングで年休を付与する際に前貸し分を相殺すると、従来付与するはずであった日数を付与することができません。
つまり、従来付与すべきであった日数を付与しないということは、労基法で定める基準に達しないということです。
正しい付与日数は、前貸し分と相殺した日数ではなく、法定通りの日数を付与しなければなりません。
年休を前貸しした従業員が、法定通りの日数分の年休を請求してきたら、その主張が認められるということです。
今回の話は、従業員へ便宜を図ったが為に、労基法違反になってしまうという事例です。
従業員に対して特別に便宜を図る際には、それに伴うリスクを知っておくべきです。
御社のルール(社長による便宜的扱い)、それ労働基準法に則していますか?
社会保険労務士 秋野 高大