「孫子」の兵法の本質(「就業規則」って要らない?)
最近読んだ本についての話。
少し前に「孫子」について書かれた本を読みました。
「孫子」と言えば、「彼を知り己を知れば、百戦殆うからず。」とか「兵は詭道なり」など有名な言葉が多いので、名前はご存知かと思います。
遡れば戦国大名も読んでいたようですし、ソフトバンクの孫正義さんやマイクロソフトのビル・ゲイツさんも愛読しているそうです。
ビジネスにおいてもしばしば引用される「孫子」なので、どうしても相手に打ち勝つ術を記した書物であるイメージが定着していました。(もちろん兵法書ですので、相手に勝つ為の術の記述がされているわけですが・・・)
が、本質はそうでないようです。
「孫子」は、勝ちと負けの間にある、勝っても負けてもいない状態である「不敗」の活用を重要視しています。
つまり、今は勝てないのであれば、負けていない現状を維持もしくは改善向上し、勝機を見出せたら勝負に出るというところが孫子の兵法の本質だそうです。
勝ち負けが生死に直結するわけですから、勝算もなく安易に勝負に出ない、または勝ったとしてもその後第3者に攻められて負けるような戦いをしないというのは、当然の帰結なのでしょう。
「不敗」の活用・・・己を振り返ると、当然反省です。これから積極的に活用していきます。
ところで御社には、「就業規則」がありますでしょうか?
「就業規則」がない会社にしばしば遭遇します。
「就業規則」がないということは、もし労使間トラブルが生じたならば、「不敗」の状態ではいられません。まず負けることになります。
労働者を保護する法律は、労働基準法をはじめ複数整備されています。
しかし、会社や経営者を守る趣旨の(対労働者への)法律は残念ながらありません。
「就業規則」がない会社は、労務管理についてルーズになっていることが比較的多いのが実感です。
・「就業規則」を作ると会社を縛ることになるから。
・「就業規則」を作ると費用がかかるから。
・「就業規則」を作る法的義務がない(従業員数が10人未満)から。
という理由を挙げて作成していないのはないでしょうか?
「就業規則」があれば、こういったことが可能となります(ただし、正しい運用が必須です)。
例えば、「休職」の規定について考えてみましょう。
労働基準法等には、「休職」についての定めはありません。
つまり、法的に定められたものではないものということです。
そうであるにもかかわらず、どの会社も「就業規則」を作成する際に「休職」の規定をいれています。それには次のような考え方が理由となっています。
従業員側の視点で考えると、ケガや病気等で労務を提供できない期間についても「休職」の規定があるおかげで、雇用契約を担保することができます。これにより治療等に専念することが可能になります。
会社や経営者側の視点で考えると、「休職」期間の満了で従業員が退職となります(もちろんその旨の内容を規定する必要があります)。
解雇という処分を下すには非常に厳しい昨今です(簡単に解雇ができた時代はないと思いますが)。
労働契約法には、解雇についてこのように定められています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
①客観的に合理的な理由を欠いていない
②社会通念上相当であると認められる
この①②を裁判所に認められるのはなかなか至難です。
私も「解雇」の選択肢は、会社側のリスクが高いことが多い為、選択することはほとんどありません。
もちろん、「休職」の規定があれば、直ちに様々なリスクがヘッジできるのかと言うとそうではありません。
既に「就業規則」を作成されているものを拝見していると、トラブルの火種を持った内容になっていることが散見されます。
・休職の期間は適正な期間になっていますか?
・休職へのプロセスは適切ですか?
・休職と復職のコントロールは会社ができる内容ですか?
休職は、事業規模を問わず発生しています。
特に精神疾患が増加しており、休職の規定を使ったことがある会社が増えています。
さて、御社の今の状態は、「不敗」を活用できる状態でしょうか?
それとも、すぐに「負け」てしまう状態でしょうか?
必要なことは、「事前に備える!」ということです。
社会保険労務士 秋野 高大